驚異の部屋

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ひすとり!×驚異の部屋

ひすとり!とは、主にTwitter上で展開されている、歴史×エンタテイメントを意識したゆるやかなつながりの名称です。
参加者は東西を問わず史学の研究者から歴史を楽しむ一般の方まで様々。主催者がいるわけではなく、固定のメンバーが明確にいるわけでもない自由な空気の元に、突発的に歴史に関するあれこれのつぶやきがTwitterのTL上に発生します。
そんなひすとり!に関わる方々に自分の研究分野や興味対象をモノで表していただきsdtが絵にし、この驚異の部屋に展示しました。
「驚異の部屋」とは、大航海時代以降のヨーロッパにおいて、珍奇なものをジャンルを隔てず集め陳列する部屋のこと。王侯貴族から聖職者・学者などの手によって作られた「驚異の部屋」は、現在の博物館や美術館の原型でもあります。
この部屋に並べられたひとつひとつに、様々な背景があります。
どうぞごゆっくり、まだ見ぬ過去の世界へと、お進み下さい。

キャプション

獅子の足をかたどった脚の書見台と粘土板文書

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獅子の足をかたどった脚の書見台と粘土板文書

紀元前3000年の昔、ティグリス・ユーフラテス河に栄えたメソポタミア文明。
シュメールやアッシリアといった国々で、人々は世界最古の文字の一つを生み出しました。大河の河辺の泥をこねて書板とし、そこに生い茂る葦を手折って筆として、かの「ギルガメシュ叙事詩」や「ハンムラビ法典」を初めとする数々の神話や文書を残したのです。
彼らの書板「粘土板文書」は、紙や羊皮紙とは比べものにならないほど頑丈で堅固。五千年以上を経て現在まで残り、古代の地層の中から我々の前に姿を現します。

アッシリア人は巨大な「図書館」を建造しました。
掌に収まるものから人の体よりも大きなものまで、数千を数える粘土板文書を、収集し分類して、彼らの土地からはずっと遠く離れたところから運んできた木材で作った棚に収めて、灯りは土地に湧く天然のアスファルト、建物は粘土板文書と同じ泥を太陽の光で乾かして作る「日干し煉瓦」を積んだもの。
行き来するのは黒い髭をたくわえ、麻の服に身を包み、時には瑠璃石や紅玉髄の首飾りや飾り帯を帯びた、専門の教育を受けた書記官達。彼らの宮殿は繊細な浮彫や絢爛な壁画で飾られていましたし、彼らの家具もまた美しいものでした。
書記官達は「図書館」で探し当てた目当ての粘土板を、ランプの光を近付けて読むため、書見台に置くこともあったでしょう。その机の四本の脚は、青銅で鋳造された、百獣の王ライオンの足を模した先端を持っています。

獅子……それはメソポタミアの人々にとって、特別な意味を持つ獣でした。
それは強大なものであり、高貴なものでもありました。 野生の力の権化であり、王を象徴するものでもありました。
アッシリアやペルシアの王達は、馬に牽かせた戦車に乗り、槍と弓とで武装して、豪奢な衣装を身に纏い、そうして臣民の前で獅子と闘争をおこなったのでした。強大なる獣に打ち勝つ王の姿に、民衆は惜しみない賛美を送ったのです。
「獅子の足を象った脚を持つ机」は、メソポタミアからギリシャ、ローマへと受け継がれて、今日多くの遺品を見ることができます。
その上に乗せられた書板の形も文字も変わっても。